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■01:テストプレイヤー(第一版) 2012.3.4(日)公開 →
改版
午前中だからなのか、都内だというのに連休中の日曜にしては人のまばらな駅前で、燈(ともる)は案内状の地図を見直していた。
高校生として迎える二度目のゴールデンウィークを毎日だらだらと昼過ぎまで寝坊していた彼だが、今日は登校するよりも早起きし、電車を乗り継いでこの駅にたどり着いたところだ。
「えっと‥‥ここから徒歩五分か」
地図で目的地のビルまでの道のりを確認し、携帯で時間を見ると、指定された午前九時まであと十五分もなかった。
「まあ、間に合うだろ」
道さえ間違えなければ間に合いそうだが、さすがに余裕は無い。燈は少し早足で歩き始めた。
燈がゲームのテストプレイヤーの依頼メールを受け取ったのは二週間ほど前のことだ。メールには『プレイヤー募集につきましては、当社が独自に厳選な審査を行い、直接ご連絡させていただきました』とあった。彼はいくつかのネット対戦型ゲームで、かなり上位の成績を残しているので、ゲーマーとしての実力を評価されたのだろう。
しかし、そのメールは肝心のゲーム内容についてほとんど触れていなかった。まだ開発中で未発表のゲームであることと『世界初の画期的なシステムを採用した多人数参加型リアル体感格闘ゲーム』としか記述されていなかったのだ。
あまりに情報不足なので、具体的なゲーム内容やそのシステムについてメールで問い合わせてみたが、『ゲーム内容の詳細につきましては、テストプレイに参加される方に当日、説明させていただきます』とつれない返事しかもらえず、ネットで検索しても、それらしい情報は何も得られなかった。
また、依頼メールの最期には『当社が開発中のゲームのテストプレイを行うことは極秘扱いとし、他言無用でお願いします。』とあった。
少々うさん臭い。何か引っ掛かる部分がなくもない‥‥が、多少なりとも報酬が出ることと、何より『世界初の画期的なシステム』という部分に強く惹かれた燈には『参加』以外の選択肢はなかった。
彼が依頼メールに『参加』と返信して三日後、郵送されてきた案内状に記されていたテストプレイの会場が今向かっているビルだ。燈をテストプレイヤーとして招待したのは、そのビルにオフィスを構える『ダイブイン・システム』というベンチャー系ゲーム会社だった。
「このあたりのはずだけど‥‥」
燈が足を止め、周りのビルを見渡そうとしたとき、ふいに背後から声をかけられた。
「あの‥‥」
「え! はい?」
慌てて振り返ると、声をかけてきたのは十代半ばの少女だった。少し跳ねたショートカットの似合う小柄な女の子だ。
「えっと、その‥‥ちょっと教えてもらえますか? あの‥‥ここに行きたいんですけど‥‥」
そう言って彼女が差し出したのは、燈のものと同じ案内状の地図だった。
「え、そこ? えっと‥‥もしかして『ダイブイン・システム』に招待された?」
「え? あ、はい。そーです。あの‥‥あなたも?」
「うん、そう。俺もそこに行く途中」
「やたっ! 助かった。実は私、二十分ぐらいこの辺りで迷ってて‥‥」
「そ、そんなに? じゃあ一緒に‥‥っていうか、もうこのあたりのはずだけど‥‥」
燈の言ったとおり、目的のビルはわずか十数メートル先だった。だが、表通りから一歩路地に入っていたため、気をつけていないと見逃してしまっても不思議はない。
「ほんと、わっかりづらいとこだなー」
「良かったぁ。一人だったら、また素通りするとこだった」
「ちょっと急ごう。もう、あんまり時間無いし」
そこは最新鋭のゲームを開発する会社がオフィスを構えるビルにしては少々古臭く、雑居ビルといったほうが似いそうな建物だった。休日ということもあってか一階は無人だったが、エレベーターは稼働していた。エレベーターの横の案内板によるとダイブイン・システムのオフィスがある十三階はビルの最上階だ。
「うわー、シーンとしてる。誰もいないから、ちょっと不気味ー」
「だね。なんか薄暗いし‥‥まあ、でも、エレベーターが動いてて良かった」
二人が十三階でエレベーターを降りると、目の前がダイブイン・システムの受付だった。受付の女性に案内状を提示すると入場許可証を渡され、少し奥の『ミーティングルーム』と書かれた部屋に行くように指示された。
そこは学校の教室を少し狭くしたぐらいの部屋で、案内役の若い男性が一人いて、二人は案内状に書かれたグループ番号の席に着くようにと指示された。見ると大き目のテーブルが四つあり、それぞれのテーブルにはA〜Dのアルファベットが書かれた札が立てられている。各テーブルに用意された四人分づつの席は、すでにほとんど埋まっていた。
「私は‥‥んっと『A1』」
「俺は、えーと‥‥『A2』だ」
「じゃあ、おんなじテーブルだ。ほら、一番奥のテーブルが『A』だよ」
「あ、ほんとだ」
その『A』の札が立つテーブルには、燈のよく知る顔があった。先に気が付き、声をかけてきたのは相手の方だった。
「なーんだ、やっぱりな。燈もテストプレイヤーに選ばれてたんだ」
ツンツン頭のメガネ男子が軽く片手を挙げ、にやりとしてみせた。
「京志郎(きょうしろう)! そーか、まあ、たぶん、お前も選ばれてるんじゃないかと思ってたよ」
燈と京志郎は一年ほど前、あるネットゲームで知り合い、ゲーム中のチャットで家が近いことがわかってから、実際に会って遊ぶようになった仲だ。京志郎もゲームでは燈に負けない成績を残してる。
「燈、相変わらず、時間ギリギリだなー」
「余裕でしょ。ちゃーんと三分前に着いてるじゃん」
「それがギリなんだってば‥‥って、それより、えーと‥‥その娘(こ)は?」
京志郎の視線はすでに燈を素通りして、その後ろに隠れるように立っている少女のほうに向けられていた。
「え? あ‥‥いや、俺も今そこで会ったばっかりだから。えっと‥‥そういえば自己紹介してなかったっけ。
俺は『友坂・燈(ともさか・ともる)』。で、こいつは『風間・京志郎(かざま・きょうしろう)』。えーと、君は‥‥」
「あ、私『黒河・香菜(くろかわ・かな)』っていいます」
香菜は会ったばかりの男子二人を前に少し緊張しているような笑顔を見せた。
「俺たち高ニなんだけど、黒河さんは? 高校生?」
「高一です。今年入学したばっかり。友坂さんたちはどこ高校ですか? っていうか、お家どの辺なんですか?」
「あー、俺たち高校は別々だけど、二人とも横浜に住んでる。黒河さんは東京?」
「埼玉です。ここまでちょっと遠かったー」
三人が話し始めてすぐ、社員証を首から下げた三十代前半ぐらいの男性と少し若い二十代半ばぐらいの男性の二人が部屋に入ってきたので、燈と香菜はそれぞれテーブルに「A1」、「A2」というシールが貼られた席に着いた。
席は「A1」〜「A4」まで四人一列に並んでる。香菜が「A1」、燈が「A2」、そして「A3」に京志郎、その隣「A4」には彼らよりちょっと年上に見える女性が座っていた。
今回集まったテストプレイヤーは十代後半から二十代後半といったところか。なかには、ちらほら女性の姿もある。席は全部で十六あるが、まだ一つだけ空いていた。
さきほど入って来た三十代の男性が正面の大きなホワイトボードの脇に立ち、マイクの感度を調整している。他の二人の社員は部屋の端の方の席に着いていた。正面に立った男性は他の社員にいろいろ指示していた様子から、今日のテストプレイの責任者のようだが、ベンチャー系の若い会社らしく燈たちとあまり変わらないラフな格好をしている。
すぐに準備が整い、正面の男性が燈たちに向き直った。
「えー、そろそろ時間なので始めたいと思います」
‥‥ つづく
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第一話(改定版)
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公開日:2008.11.17
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