トップ絵
 ■ここは佐々丸のオリジナル漫画やCGを公開するサイトです。

■超電脳現実 ゲキトー<GEKITOH>■

■01:テストプレイヤー(第二版)  2012.8.31(金)公開

  ※初版からの変更部を色分けしたバージョンはこちら


 午前中だからなのか、都内だというのに連休中の日曜にしては人のまばらな駅前で、燈(ともる)は案内状の地図を見直していた。

 高校生として迎える二度目のゴールデンウィークを毎日だらだらと昼過ぎまで寝坊していた彼だが、今日は登校するよりも早起きし、電車を乗り継いでこの駅にたどり着いたところだ。

「えっと‥‥ここから徒歩五分か」

 地図で目的地のビルまでの道のりを確認し、携帯で時間を見ると、指定された午前九時まであと十五分もなかった。

「まあ、間に合うだろ」

 道さえ間違えなければ間に合いそうだが、さすがに余裕は無い。燈は少し早足で歩き始めた。

 燈がゲームのテストプレイヤーの依頼メールを受け取ったのは二週間ほど前のことだ。メールには『プレイヤー募集につきましては、当社が独自に厳選な審査を行い、直接ご連絡させていただきました』とあった。彼はいくつかのネット対戦型ゲームで、かなり上位の成績を残しているので、ゲーマーとしての実力を評価されたのだろう。

 しかし、そのメールは肝心のゲーム内容についてほとんど触れていなかった。まだ開発中で未発表のゲームであることと『世界初の画期的なシステムを採用した多人数参加型リアル体感格闘ゲーム』としか記述されていなかったのだ。

 あまりに情報不足なので、具体的なゲーム内容やそのシステムについてメールで問い合わせてみたが、『ゲーム内容の詳細につきましては、テストプレイに参加される方に当日、説明させていただきます』とつれない返事しかもらえなかった。ダメ元でネット検索もしてみたが、それらしい情報は何も得られなかった。

 また、依頼メールの最期には『当社が開発中のゲームのテストプレイを行うことは極秘扱いとし、他言無用でお願いします。』とあった。

 あまり深く考えるタイプではない燈でも、『少々うさん臭い、何か引っ掛かる部分がなくもない‥‥』と思える話だったが、多少なりとも報酬が出ることは年中金欠の燈にとっては魅力的だった。そして何より『世界初の画期的なシステム』という言葉の吸引力が、燈に『参加』以外の選択肢を与えなかった。

 彼が依頼メールに『参加』と返信して三日後、郵送されてきた案内状に記されていたテストプレイの会場が今向かっているビルだ。燈をテストプレイヤーとして招待したのは、そのビルにオフィスを構える『ダイブイン・システム』というベンチャー系ゲーム会社だった。

「このあたりのはずだけど‥‥」

 燈が足を止め、周りのビルを見渡そうとしたとき、ふいに背後から声をかけられた。

クリックすると大きな画像が開きます
「あの‥‥」
「え! はい?」

 慌てて振り返ると、声をかけてきたのは十代半ばの少女だった。少し跳ねたショートカットの似合う小柄な女の子だ。

「えっと、その‥‥ちょっと教えてもらえますか? あの‥‥ここに行きたいんですけど‥‥わかります?」

 そう言って彼女が差し出したのは、燈のものと同じ案内状の地図だった。

「え、そこ? えっと‥‥もしかして『ダイブイン・システム』に招待された?」
「え? あ、はい。そーです。あの‥‥あなたも?」
「うん、そう。俺もそこに行く途中」
「やたっ! 助かった。実は私、二十分ぐらいこの辺りで迷ってて‥‥」
「そ、そんなに? じゃあ一緒に‥‥っていうか、もうこのあたりのはずだけど‥‥」

 燈の言ったとおり、目的のビルはわずか十数メートル先だった。だが、表通りから一歩路地に入っていたため、気をつけていないと見逃してしまっても不思議はない。

「ほんと、わっかりづらいとこだなー」
「良かったぁ。一人だったら、また素通りするとこだった」
「ちょっと急ごう。もう、あんまり時間無いし」

 そこは最新鋭のゲームを開発する会社がオフィスを構えるビルにしては少々古臭く、雑居ビルといったほうが似いそうな建物だった。休日ということもあってか一階は無人だったが、エレベーターは稼働していた。エレベーターの横の案内板によるとダイブイン・システムのオフィスがある十三階はビルの最上階だ。

「うわー、シーンとしてる。誰もいないから、ちょっと不気味ー」
「だね。なんか薄暗いし‥‥まあ、でも、エレベーターが動いてて良かった」

 二人が十三階でエレベーターを降りると、目の前がダイブイン・システムの受付だった。受付の女性に案内状を提示すると入場許可証を渡され、少し奥の『ミーティングルーム』と書かれた部屋に行くように指示された。

 そこは学校の教室を少し狭くしたぐらいの部屋で、正面には70〜80インチほどの黒いボードが設置されていた。ボードには何も表示されていないが電子黒板のようだ。

 その正面のボードに向かって長いテーブルが横に二つ、それが二列で計四つ並んでいる。それぞれA〜Dのアルファベットが書かれた札が立てられていて、各テーブルに用意された四人分づつの席は、すでにほとんど埋まっていた。

 燈と香菜が興味を引きつけられたのは、部屋の後ろのほうに四つ並んだ体感ゲーム筐体ぐらいの黒っぽい無地のボックスだった。各ボックスには黒みがかかった透過性のドアがついているが、ボックス内が暗いので様子はわからない。

 二人が謎のボックスに気をとられていると、すぐドアの横にいた案内役の若い男性から、案内状に書かれたグループ番号の席に着くようにと指示された。

「私は‥‥んっと『A1』」
「俺は、えーと‥‥『A2』だ」
「じゃあ、おんなじテーブルだ。ほら、一番奥のテーブルが『A』だよ」
「あ、ほんとだ」

 その『A』の札が立つテーブルには、燈のよく知る顔があった。先に気が付き、声をかけてきたのは相手の方だった。

「なーんだ、やっぱりな。燈もテストプレイヤーに選ばれてたんだ」

 ツンツン頭のメガネ男子が軽く片手を挙げ、にやりとしてみせた。

「京志郎(きょうしろう)! そーか、まあ、たぶん、お前も選ばれてるんじゃないかと思ってたよ」

 燈と京志郎は一年ほど前、あるネットゲームで知り合い、ゲーム中のチャットで家が近いことがわかってから、実際に会って遊ぶようになった仲だ。京志郎もゲームでは燈に負けない成績を残してる。

「燈、相変わらず、時間ギリギリだなー」
「余裕でしょ。ちゃーんと三分前に着いてるじゃん」
「それがギリなんだってば‥‥って、それより、えーと‥‥その娘(こ)は?」

 京志郎の視線はすでに燈を素通りして、その後ろに隠れるように立っている少女のほうに向けられていた。

「え? あ‥‥いや、俺も今そこで会ったばっかりだから。えっと‥‥そういえば自己紹介してなかったっけ。 俺は『友坂・燈(ともさか・ともる)』。で、こいつは『風間・京志郎(かざま・きょうしろう)』。えーと、君は‥‥」
「あ、私『黒河・香菜(くろかわ・かな)』っていいます」

 香菜は会ったばかりの男子二人を前に少し緊張しているような笑顔を見せた。

「俺たち高ニなんだけど、黒河さんは‥‥中学生?」
「え? ‥‥いちおー高校生です。先月、高校に入学したばっかですけど」
「え、そうなの? えーと‥‥ごめん」

 京志郎がちょっと申し訳なさそうに頭をかく。香菜は少し拗ねたような表情を見せたが、すぐ笑顔に変わった。

「へへ、気にしてません。去年まで、たまに小学生に間違われたぐらいなんで」
「「あー、やっぱ‥‥」」

 思わず燈と京志郎の声がダブった。

「やっぱり‥‥?」
「「いや‥‥別に」」

 またしても燈と京志郎の声がダブった。香菜は一瞬、ジト目で燈と京志郎を見たが、すぐに話題を変えてきた。それほど気にしてはいないようだ。

「友坂さんたちはどこ高校ですか? っていうか、お家どの辺なんですか?」
「あー、俺たち高校は別々だけど、二人とも横浜に住んでる。黒河さんは東京?」
「私、埼玉。最寄駅までバスで、駅は各停だから、ここまでちょっと遠かったー」
「そりゃ大変だったね」

 住んでいる場所の話題を振ったのは香菜だったが、それ以上話を広げるつもりはないようだ。すでに彼女の好奇心全開の瞳は後ろに四つ並んでいる謎のボックスに向けられていた。

「ところであのボックス、なんだと思います?」
「あー、あれね。俺もちょっと気になってんだけど‥‥たぶんテストプレイ用の筐体じゃないかな。俺たちがテストプレイするゲームって体感ゲームみたいだし」

 燈たちより早く到着していた京志郎もボックスについて考えていたようだ。京志郎の予想はごく自然なものだが、燈にはちょっと引っ掛かることがあった。

「でも、四つじゃ少ないだろ?」
「四人づつプレイするんじゃないか」
「‥‥依頼メールには多人数参加型ゲームって書いてあったじゃん。こんなに人も集まってるし、もっと大人数で同時にプレイできるイメージなんだけど‥‥」
「たしかに‥‥四人じゃ少ない気がしますねー」

香菜も燈の考えに同調したようだが、少し首をかしげている。

「うーん。まあ、言われてみれば‥‥そうだな。じゃあ、燈はなんだと思う?」
「え? う〜ん、なんだろうな〜?」

 京志郎の予想を否定した燈だが、ボックスの正体について何か他に予想しているものがあるわけではなかった。

「‥‥実は今日のテストプレイとは無関係だったりして」
「え〜っ、それはないですよ!」
「そうそう、絶対関係あるって」
「ですよねー!」

クリックすると大きな画像が開きます  そんな感じで三人の話しが盛り上がり始めたところで、社員証を首から下げた男性が二人、部屋に入ってきた。一人は三十代前半ぐらい、もう一人は少し若く二十代半ばぐらいに見える。三人は話を中断し、燈と香菜はそれぞれテーブルに「A1」、「A2」というシールが貼られた席に着いた。

 席は「A1」〜「A4」まで四人一列に並んでる。香菜が「A1」、燈が「A2」、そして「A3」に京志郎、その隣「A4」には彼らよりちょっと年上に見える女性が座っていた。

 さきほど入って来た三十代の男性は他の社員にいろいろ指示している様子から今日のテストプレイの責任者のようだが、ベンチャー系の若い会社らしく、ノーネクタイでジャケットにジーンズとラフな服装だ。

 彼はマイクの感度を調整したあと、他の二人の社員に部屋の奥の席へ着くように指示すると、自分はボードの脇に立って燈たちを見渡した。

 今回集まったテストプレイヤーは十代後半から二十代後半といったところか。ちらほら女性の姿もある。席は全部で十六あるが、燈と香菜が席に着いても、まだ一つだけ空いていた。

 責任者と思われる男性は、すでに集合時間が過ぎているのを確認すると、空席分のプレイヤーは社員で補うことにして、テストプレイについて説明を始めることにした。

「えー、そろそろ時間なので始めたいと思います」

           ‥‥ つづく



■予告

 燈「聞きたいことがあるなら拳で聞けーっ!」
 京志郎「そんな話じゃ無いよな?」
 香菜「そんなわけで、次回『ダイブイン・システム』にちょっぴりご期待ください!」
 燈「ちょっぴり?」
 香菜「それで十分です!」
 京志郎「内容は?」
 香菜「見てのお楽しみっ♪」



目次>  → < 第二話

■トップページ■



バナー

公開日:2008.11.17
Total:
now :

■コンテンツ■
■トップページ
■プロフィール
■更新履歴
■マンガ
■CG
 トップ絵
 イラスト
 落描き
 ■オリジナル小説
■link
■blog
blog へリンク

■mail
(ご連絡はこちら)

よかったらWCRへ投票お願いします。 WCRへぽちっと投票!

スーパーマンガデッサン―作画のための考えるデッサン

新品価格
¥2,100から
(2010/10/11 18:42時点)


スーパーパースデッサン―キャラが立つ遠近法のすべて

新品価格
¥2,100から
(2010/10/11 18:39時点)


パース!―マンガでわかる遠近法

新品価格
¥1,680から
(2010/10/11 19:23時点)


マンガの基礎デッサン 女のコキャラ編

新品価格
¥2,000から
(2010/10/11 18:48時点)


公認IllustStudioですぐできる見惚れるイラストの描き方 イラストコミュニケーションサイトpixiv人気絵師が徹底解説!

新品価格
¥2,415から
(2010/10/11 18:51時点)


IllustStudio パッケージ版

新品価格
¥5,436から
(2010/10/11 19:15時点)


ComicStudioEX 4.0

新品価格
¥35,269から
(2010/10/11 19:17時点)


Adobe Photoshop Elements 9 日本語版 Windows/Macintosh版

新品価格
¥12,420から
(2010/10/11 19:21時点)


六角大王Super6解説書セットWin版

新品価格
¥9,072から
(2010/10/12 18:46時点)


RETAS STUDIO Windows

新品価格
¥29,232から
(2010/10/11 19:19時点)


inserted by FC2 system