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■宇宙人探偵(仮)■

■01:通勤電車の少女(第一版)  2013.7.31(水)公開


 今日もあの娘はいないのか……。

 電車のドアが閉まる寸前に飛び乗った俺は、軽く息を整えながら車内を見回した。通勤ラッシュといわれる時間帯だが、都心から離れる方向に向うので車内はそれほど混んでいない。座席は埋まっていたものの、立っている客はまばらだ。見覚えのある顔があればすぐにわかるはずだが、残念ながら、あの少女の姿は見つけられなかった。

 俺は雨森・護(あまもり・まもる)。今朝もいつもと変わらぬ電車に揺られ、通勤中の平凡なサラリーマンだ。ブルゾンに黒のジーンズとラフな服装だが、これが今の通勤スタイル。入社当初こそスーツで通勤していたが、服装にはあまり気を使わなくても良い技術職の職場なので、スーツを着るのは出張するときぐらいになってしまった。入社して三年、気づけば四捨五入で三十路になってしまう微妙なお年頃だが、年齢よりちょっと若く見えるらしく、こんな服装だと大学生に間違われることもある。まあ、ただ単に大人っぽい落ち着きが足りないだけかもしれないが。
「ふぁ……」
 おっと。一応、人目もあるんで、出かかったあくびを無理やりかみ殺す。最近、ストレス発散のため、寝る前にゲームをやるのが日課になっていて、昨日も寝たのは午前三時過ぎ。ちょっと寝不足気味だ。あいにく今日は席が空いてないので、俺はドアの脇の手すりにへばりついて、窓の外を流れる緑の目立つ風景をぼんやり眺めていた。

 都心にあった勤務先の大手玩具メーカの本社が、今の場所に移転したのは二ヶ月ほど前のことだ。実家から新しい本社へ通勤すると楽に二時間以上かかるため、俺も会社の引っ越しに合わせ、三十分ほどで通勤できる場所にアパートを借りて一人暮しを始めた。食事はほとんどコンビニ弁当、洗濯は溜まり気味という現状は、客観的に見て、ちゃんと出来ているとは言い難いが、とりあえず初めての一人暮らしに慣れてきたところだ。

 すっかり日常の一部となった、この通勤電車にちょっとした楽しみを見つけたのは、二、三週間ほど前のことだ。毎朝、俺が乗る車両に可愛い女子高生が乗ってくることに気づいたのだ。
 彼女がどこから乗っているのかはわからないが、とにかく俺より前の駅から乗ってきて、俺より二つ手前の駅で降りる。いつも女友達と二人で乗っているが、話すのはほとんど友達の方だ。彼女は口数が少なく、一方的に話し続ける友達に、ときおりコクンと頷いて、肩にかかるストレートヘアをサラサラと揺らしていた。少し小柄で華奢な、可愛いけど、どことなく儚(はかな)げに見える女の子だ。

 その彼女の姿を三日前から見ていない。昨日、一昨日はお喋りな彼女の友人が、一人ぽつんと乗っていた。今日はその友人の姿も見えない。しかし、同じ制服の生徒が何人か乗っているので、学校が休みというわけではないだろう。いつもこの時間、この車両、このドアの近くに乗ってたのに……。もしかして、時間を変えてしまったのだろうか? はあー。せっかく見つけた、ささやかな楽しみだったのに……。
 さて、そろそろ彼女がいつも降りる駅に到着だ。今日はここで降りて引き返しちゃおうかな。もー、すっかりやる気も無くなったし……って、流石にそれは社会人としてダメすぎるな。いやしかし、やる気が無いのに無理やり仕事しても効率悪いしなあ……。
 俺がそんなしょうもないことで迷っていると、軽い震動とともに電車が減速し始めた。間もなく駅に到着するという車内アナウンスが流れると、俺が背にしてるドア横の席で人が立つ気配を感じた。この駅で降りるんだな。ラッキー、席が空いたぜ! 俺の身体は空いた席を確保すべく、無意識に反応していた。さっきまで、この駅で降りようとか、結構本気で考えてたのに……人間の習慣って何か哀しいなあ。などと思いつつも、素早く振り返った俺の目の前に、あの娘(こ)が立っていた!
 え? 今、座席を立ったのは彼女だったのか! うわ、びっくり! まさか、すぐ後ろに座っていたとはっ! 車内を見回したとき、目の前の席が死角になってたようだ。これが灯台下暗しってやつか!

 思わず彼女を見つめてしまう俺。彼女も、目の前に立ちふさがる形になった俺のことを、少し驚いたような表情で見上げ……目が合ってしまった! まさか、こんな至近距離で彼女と見つめ合うことになるなんて! ……が、それも一瞬のことだった。互いに目を反らしてしまったからだ。いや、だって恥ずかしいし。
 にしても、この娘(こ)ずっと俺の背中の席に座ってたんだろうか? それなら、そうと一声かけてくれても……って、知らないオッサンに、そんなことするはずないよなあ。まあ、ともかく会えて良かった。きっと昨日、一昨日は風邪でもひいてたんだろう。
 久々に会って改めて思うけど、この娘、ホントに制服が似合ってるなあ。というか制服姿しか見たこと無いんだけど。他の生徒と同じ制服なのに、まるで彼女のために作られたオーダーメイドみたい。深緑色のセーラー服っぽいブレザーと、今時の女子高生らしく少し丈の短いプリーツスカート。そしてワイシャツに赤いリボン。緑や青のリボンをしている生徒もいるけど、おそらく学年を現しているのだろう。

 なんてことを、ぼーっと考えてると、ガックンとさっきより強い震動があり、珍しく電車が大きく揺れた。
「あっ」
 小さく声をあげた彼女が、バランスを崩して俺の胸に飛び込んできた。やたっ! 大ラッキー! ……と同時に右足に痛みが走った。彼女に思いっきり足を踏まれたのだ。俺の胸に片手を当てるように寄りかかった彼女がハッとした表情で顔をあげる。一瞬、大きな瞳に見つめられた俺の頭の中が真っ白になった。
「ご、ごめんなさい!」
 慌てて飛び退く彼女の声で、俺は我に返った。
「痛っ……くない。うん。大丈夫。大丈夫。痛くないよ」
 ああ、そんなに慌てて離れなくたっていいのに……。少し顔を伏せている彼女。表情はよく見えないが、顔が紅いようにも見える。
 ほどなく駅へ到着したという車内アナウンスがあり、電車はホームに停車した。ドアの脇に立つ俺の横を彼女の友達が降り、続いて彼女も降りかけて、立ち止まった。チラッと俺に向けた視線、その瞳は何かを訴えているようにも見えた……が、すぐ、小さく御辞儀をすると、ちょこちょこっと足早に駆け降りてしまった。

 友達と並んでホームを歩く彼女の後ろ姿が、車窓の向こうに小さくなっていくのを見送りながら、俺は彼女の意味ありげな仕草について考えていた。なんだったんだろ今の? 何か俺に言いたいことがあったようにも見えたけど。……いや、まさかな。勘違いだろう。お互い、相手の名前さえ知らないんだから。

            ‥‥ つづく


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公開日:2008.11.17
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